社会科学専門図書出版 文眞堂

激変する現代の日本企業のあるべき姿を論求

中垣 昇 著

日本企業のダイナミズム

〈書評・紹介文〉

類書を圧倒する着想と展開
(書評:中垣 昇 著『日本企業のダイナミズム』)

立教大学名誉教授・中京大学名誉教授

三戸 公 氏

日本企業を論じて,この本を抜く問題の広さと深さと現実性を展開したものがあったであろうか。それを財務論学者の中垣教授がものにされた。

この本は,コーポレート・ガバナンス論としての日本企業論である。コーポレート・ガバナンス論は,アメリカで起こりただちに日本でも集中的に論議せられ現在に及んでいる。それは,企業の不祥事の頻発と社会的責任の問題がマネジメント論を超えて株式会社論,ステーク・ホルダー論として企業とは何か,誰のものかが根本的に問い直され,そしてそれが法制度的に株主主権,コンプライアンス,内部統制として具体的・現実的に推し進められつつある。

本書は,その現実を見据えて,日本企業のコーポレート・ガバナンスを論じている。日本企業を問題とするからには,まずはアメリカないしはアングロ・サクソン型企業との違いを明らかにした上で論じなければならない。その違いは歴史的・文化的に形成せられたものである。著者は,これを根本から問題にしている。

日本の現代企業は,明治近代国家の成立とともに始まり形成・発展して敗戦,アメリカによる占領,冷戦体制化の高度成長,ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われるようになり,そして,冷戦終結後の失われた10年を経て現在と把えられよう。著者はこれを三つの開国として明確に把握して論じている。

明治開国を著者は,キリスト教国において成立した資本制社会を非キリスト教国において自力で形成した最初の国,近代的国民国家の成立とみる。それは教育・経済・社会諸制度の法制的整備の結果として,日本型企業における経営と統治の家制度的形成と展開,そして敗戦におけるその再編制,が簡潔に論じられている。

多神教の和をもって尊しとなす日本人とその経営である共同体的・家族主義的日本的経営と一神教・個人主義的・合理主義的アングロ・サクソン型アメリカ経営との対比,国民国家という組織と国境なく拡大・進化する無政府的市場経済,国家と市場の対立と一体化,アメリカ=アングロ・サクソン型基準をグローバル・スタンダードとして日本もそれに同調することにより生ずる諸問題,これを著者は専門としてきた財務論・金融論を中心として具体的に数値をあげて論を展開している。

論の展開において,簡潔な論述を補うものとして数多くの的確な図表が数多く使用されているのも,本書の特長であり有益である。本書の最後の一節を引用しよう。「日本企業は,株主中心のアングロ・サクソン型システムが主導的役割を果たしている国際標準化の流れに安易に頼ることなく,わが国固有の文化・伝統・慣習を直視し共同体での生活を可能にするコーポレート・ガバナンスを目指すのが望ましい。」

〈かくあるべし〉,規範を論じて経営学は経営学となる。

書名は〈日本企業のダイナミズム〉と題されている。私の上述の読みは一つのものであり,他にもこの本は,読みとり読みこむことが出来るであろうことは言うまでもあるまい。

なお,本書は,二部構成で,第Ⅰ部は「日本企業のダイナミズム」で上述の部分であり,第Ⅱ部はここ10年あまり日本企業の実態と海外進出企業の実態を活躍中の経営者にインタビュー調査した記録である。第三の開国という捉え方もここから出てきたものであろうか。清水龍瑩教授のインタビュー調査にならったと言っておられるが,清水教授にはインタビュー調査の刊行物に加え,同時にこれをもとにして『経営者のための経営学』や『企業評価論』や『企業成長論』に関する名著がある。中垣教授の場合は,このインタビュー調査で形成・深化した問題意識が本書となったのだと思われる。インタビュー調査だけによって本書は成ったのではない。財務論学者として出発した著者が中京大学で商学部長・経営学研究科長,大学院経営学研究科修士・博士課程開設,海外大学との交流とその後の継続,ビジネス・イノベーション研究科開設,中部の企業経営者との交流とすぐれた経営者梅村清弘総長との強い影響を受けて経営的経験を積み重ねつつその経験をもとにしながら研究をたゆまず続けて研究書として何冊も出し,そして本書がなったのである。見事な本格的経営学者として,あらためて中垣先生をみる。

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