
ベトナム経済の発展方向を提示する力編
現段階の東アジア経済の特徴は何だろうか。2つの大きな特徴をあげることができるだろう。1つは共同体の形成に向けた貿易・投資の自由化である。AFTA(ASEAN自由貿易地域),ASEAN・中国FTA(自由貿易協定),2国間のFTAやEPA(経済連携協定)など地域経済統合は,この地域の貿易・投資の自由化を促進している。もう1つの特徴は中国の台頭である。本書第2章が詳細に分析しているように,中国の工業化はその規模,スピードが近隣諸国をはじめ多くの国に強力なインパクトを与えている。
東アジアのこの2つの特徴は,地域の後発国であるベトナムにはどのような影響を与えているだろうか。そして,ベトナムが今後長期的発展を持続化していくためにはどのような戦略・政策が必要だろうか。本書はこの課題に取り組み,多角的に分析したものである。本書は全体として3つの部分に分けることができる。第1部(第1章から第5章まで)は上述された東アジア地域の潮流に直面するベトナムの工業化をめぐる諸問題を分析する。第2部(第6と7章)は工業化を支える金融・証券市場に関する分析である。第3部(第8章から10章まで)はベトナムと日本との関係を検討する。以下,各章の要点を紹介しておく。
第1章(木下俊彦論文)では,ベトナムの今後の経済発展の方向を示すことを試みている。筆者によれば,ベトナムのポテンシャルについては楽観論が多いが,感覚的な推断によるものが多い。経済発展の内容や国家の意思決定を考察すると,ブラックボックス部分が多い。冷戦終了以前の時代は,タイで典型的に見られたように,長い年月をかけて,輸入代替化,ついで,円高による日本などからの輸出志向産業誘致を進め,アジア通貨危機後に,選択と集中による再編が行われ,強力かつ広範な産業クラスター創設が可能であった。しかし,WTO,FTAの時代には,そういう形での発展は許されず,いかにうまく戦略的にグローバルなバリューチェーンに入っていくか,長期的に,どのように知的社会に移行していくかが問われる。こうした観点からの分析と提案を行う。